原田昌彦社会保険労務士事務所コラム

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就業規則作成・変更ガイド①

就業規則



 

1. 就業規則の作成義務について

1.1 法的義務が発生する条件

労働基準法は、事業場において常時10人以上の従業員を使用する使用者に対し、就業規則の作成を義務付けています。

この義務に違反した場合、すなわち、作成を怠ったり、作成しても所轄の労働基準監督署に届け出なかったりすると、30万円以下の罰金が科される可能性があります。

ここで重要なのは、この義務が企業全体ではなく、「事業場」単位で判断されるという点です。

したがって、複数の事業所を持つ企業であっても、各事業所の従業員数が常時10人未満であれば、その事業所については就業規則の作成義務は発生しません。

しかし、各事業所の従業員数が常時10人以上であれば、それぞれの事業所ごとに就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

ただし、複数の事業場で全く同一の就業規則を適用している場合には、「本社一括届出制度」を利用して、本社を管轄する労働基準監督署にまとめて届け出ることも可能です。

また、労働基準法は、就業規則を作成または変更した場合、使用者に対して所轄の労働基準監督署長に届け出る義務も課しています。

 

1.2 「常時10人以上」の従業員の定義

労働基準法における「常時10人以上」の従業員とは、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなど、雇用形態を問わず、常態として使用しているすべての労働者を指します。

重要なのは、雇用契約を結んでいる労働者の数であり、一時的に10人を下回ることがあっても、全体として常時10人以上の労働者を使用していると認められる場合には、就業規則の作成義務が発生します。

例えば、正社員が5名、有期契約のパートタイマーが3名、同じく有期契約のアルバイトが3名の場合、合計11名となり、「常時10人以上」に該当するため、就業規則の作成義務が生じます。

ただし、業務委託契約を結んでいる労働者や、派遣会社から派遣されている派遣社員は、直接雇用されている従業員ではないため、この人数には含まれません。

 

1.3 違反した場合の罰則

就業規則の作成義務、届出義務、そして従業員への周知義務に違反した場合、労働基準法第120条により、30万円以下の罰金とともに、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。

是正勧告とは、法令違反の状態を解消するように行政機関から指導を受けることであり、これに応じない場合には、さらに厳しい処分や立ち入り検査の増加などのリスクが高まります 3

また、明確な労働条件が定められていないことで、解雇や懲戒処分などの際に適切な手続きを踏めず、従業員との間で労使トラブルが増加し、訴訟リスクが高まる可能性があります。

就業規則の不備は従業員の信頼低下につながり、優秀な人材の確保や定着が困難になることも考えられます。

常時使用する従業員数  就業規則の作成義務 届出義務 罰則 
10人以上 あり あり  30万円以下の罰金
10人未満 なし なし なし 

 

2. 就業規則の作成義務がない場合でも作成した方が良い理由

従業員数が常時10人未満の会社には、法律上の就業規則作成義務はありません。

しかし、たとえ作成義務がない場合でも、就業規則を作成しておくことには多くのメリットがあります。

 

2.1 労使間のトラブル防止

就業規則を作成することで、労働時間、賃金、休日、休暇、退職など、労働条件に関するルールが明確になり、使用者と従業員の間で起こりうる誤解や認識のずれを未然に防ぐことができます。

特に、解雇や懲戒処分に相当するような問題が発生した場合に、就業規則に明確な基準を定めておくことで、恣意的な判断を防ぎ、従業員の不当な主張を抑制する効果が期待できます。

また、業務命令に従わない従業員や、職務怠慢な従業員に対する対応についても、就業規則に根拠を明記しておくことで、適切な対応が可能になります。

 

2.2 職場の秩序維持

就業規則は、従業員が守るべき服務規律に関するルールを定めることで、職場全体の秩序を維持する役割を果たします。

例えば、会社の施設や設備の利用方法、職場内での服装、禁止事項などを明確にすることで、従業員が安心して働ける環境を整えることができます。

また、ハラスメント行為の禁止や防止に関する規定を設けることは、従業員が快適に働く上で非常に重要であり、良好な職場環境の維持に繋がります。

 

2.3 従業員の安心感向上と定着率向上

労働条件や職場のルールが明確に定められていることは、従業員にとって安心感を与え、働く意欲を高めることに繋がります。

特に、年次有給休暇の取得ルールや、慶弔休暇、育児休業、介護休業などの制度に関する事項が明記されていることで、従業員は安心して働くことができ、職場への定着率向上も期待できます。

労働条件が統一され、公平な職場環境が実現することで、従業員の不満や不公平感を解消し、会社と従業員の信頼関係を強化することができます。

 

2.4 助成金申請の可能性

国の助成金制度の中には、就業規則の作成や整備を申請要件としているものが多く存在します。

例えば、キャリアアップ助成金や働き方改革推進支援助成金など、従業員の能力開発や労働環境の改善を目的とした助成金は、就業規則に一定の規定があることが条件となる場合があります。

義務がない段階から就業規則を作成しておくことで、将来的にこれらの助成金を活用できる可能性が広がります。

 

2.5 会社のルール明確化とコンプライアンス意識の向上

就業規則を作成する過程で、経営者は自社の労働条件や服務規律について改めて検討し、明確化することができます。

これは、労務管理の基礎を固める上で非常に重要です。

将来的に従業員数が10人以上となり、就業規則の作成が義務付けられた際にも、スムーズに対応できる準備となります。

さらに、採用活動においても、就業規則の存在は応募者に対して安心感を与え、企業の信頼性を高めることに繋がります。

3. 次回予告

次回は、就業規則を作成、変更する手順について整理します。

4. 参考

【厚生労働省】就業規則一括届出制度

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/var/rev0/0109/3047/2013722143634.pdf

【厚生労働省】就業規則を作成しましょう

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-4.pdf