原田昌彦社会保険労務士事務所コラム

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確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金企業型(DC)の比較①

DB vs DC


目次

 

1. はじめに

1.1 目的

本稿は、日本の企業が退職給付制度に関して戦略的な意思決定を行う一助となることを目的としています。

具体的には、確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(DC)、そしてこれらの企業年金制度を導入しないという3つの選択肢について、それぞれのメリット・デメリットを企業と従業員の双方の視点から比較分析します。

 

1.2 日本における企業年金の重要性

日本の年金制度は、国民年金(1階部分)と厚生年金(2階部分)という公的年金を基礎とし、その上に企業が任意で設ける企業年金(3階部分)が位置づけられています。

高齢化社会の進展や公的年金だけでは老後の生活資金が十分ではない可能性への懸念が高まる中、企業年金は従業員の退職後の所得保障を確保する上で重要な役割を担っています。

 

1.3 DBとDCの概要

確定給付企業年金(DB)は、将来受け取る年金額(給付額)があらかじめ約束されている制度です。

一方、確定拠出年金(DC)は、拠出された掛金とその運用成果によって将来の給付額が決まる制度です。

 

2. 確定給付企業年金 (DB) – Defined Benefit

2.1 基本的な仕組みと目的

確定給付企業年金(DB)は、従業員に対して、将来受け取る給付額を、通常、給与水準や勤続年数に基づいて算定し、事前に約束する制度です。

その主な目的は、従業員に安定した老後所得を提供することにあり、年金資産の積立義務や受託者責任といった仕組みを通じて、従業員の「受給権」(年金を受け取る権利)を保護することが法律で強く求められています。

これは、運用リスクを従業員が負うDC制度とは対照的な特徴です。

DBは、加入者数ベースで見ると、日本で最も普及している任意加入の退職金制度です。*1

 

2.2 DB制度の種類

DB制度には、設立・運営形態の異なる「規約型」と「基金型」の2種類が存在します。

  • 規約型 (Contract Type):

    • 事業主と従業員(通常は労働組合または従業員代表)が合意した年金規約を作成し、厚生労働大臣の承認を得て実施されます。
    • 事業主が信託会社や生命保険会社などの外部の金融機関と資産管理運用契約を締結し、年金資産の管理・運用および給付業務を委託します。
    • 制度導入にあたって最低加入者数の要件はありません。
    • 制度運営に関する事務は、多くの場合、企業の総務部や人事部などが担当します。
    • 制度内容(規約)の変更には、労使間の合意が必要です。

 

  • 基金型 (Fund Type):

    • 事業主が厚生労働大臣の認可を受け、母体企業とは別の法人格を持つ「企業年金基金」を設立して実施します。
    • 設立には原則として常時300人以上の加入者が必要です。このため、中小企業単独での設立は難しく、複数の企業が共同で設立・運営する「総合型基金」に参加するケースが見られます。
    • 設立された基金が年金資産を管理・運用し、一定の条件下では基金自身による資産運用(自家運用)も可能です。
    • 基金は母体企業から独立して運営され、代議員会、理事会、監事といった独自のガバナンス体制を持ちます。運営には別途、基金の運営費用が必要です。
    • 制度内容(規約)の変更には、基金の代議員会の議決が必要です。

規約型と基金型の選択は、企業の規模や、制度運営に対する管理の度合い、独立性への意向に大きく左右されます。

規約型は、特に中小企業にとって、設立のハードルが低く、より直接的な管理が可能である一方、基金型は企業からの独立性が高いものの、設立・運営には一定の規模とより複雑なガバナンス体制が求められます。

 

2.3 企業(事業主)から見た視点

  • メリット:

    • 人材マネジメント: 将来の給付が保証されていることは、従業員の安心感につながり、優秀な人材の獲得や定着率の向上に寄与します。特に中小企業においては、他社との差別化要因となり得ます。
    • 柔軟な制度設計: 退職時の給与に連動させる方式、勤続期間中の給与やポイントの累積に基づく方式、あるいは仮想個人勘定を用いるキャッシュバランスプランなど、多様な給付算定方法を採用できます。
    • 税制上の優遇: 事業主が拠出する掛金は、全額損金に算入でき、法人税等の負担を軽減する効果があります。
    • 社会保険料の軽減: 社会保険料についても、同額を給与として支払う場合と異なり社会保険料が発生せず、社会保険料負担が軽減されます。
    • 従業員の定着促進: DBの給付額は勤続年数に応じて増加することが多いため、従業員の長期勤続を促す効果が期待できます。

 

  • デメリット:

    • 運用リスクと追加拠出負担: 年金資産の運用リスクは事業主が負います。運用実績が予定した利回りを下回った場合、約束した給付額を支払うために追加の掛金を拠出(不足分の穴埋め)する必要が生じます。これは、事業主にとって将来の財務負担の不確実性を意味します。
    • 運営管理の負担とコスト: 定期的な年金数理計算、法令に基づく積立義務の遵守、加入者への情報開示など、制度の運営管理には専門的な知識と手間がかかります。DC制度と比較して、設立や維持に関わる管理コストが高くなる傾向があります。財務状況などを加入者に定期的に開示する義務も負います。
    • 会計処理の複雑性: DB制度は、企業の貸借対照表上に退職給付債務として負債計上が必要となり、複雑な会計処理が求められます。

 

2.4 従業員から見た視点

  • メリット:

    • 給付の安定性と予測可能性: 将来受け取れる給付額があらかじめ決まっているため、老後の生活設計を立てやすく、安心感が高い制度です。受給権は法律によって保護されています。また、年金資産は企業の外部で管理されるため、企業が倒産した場合でも資産は保全されます。
    • 運用リスクがない: 資産運用の結果が悪くても、約束された給付額が減額されるリスクを従業員が負うことは原則ありません。
    • 運用の手間がない: 従業員自身が資産運用に関与したり、投資に関する知識を持つ必要がありません。
    • 中途退職時の受給可能性: 一定の加入期間(通常3年以上)を満たせば、定年前に退職した場合でも、脱退一時金として給付を受け取ることが可能です。これは、原則60歳まで引き出せないDC制度との大きな違いです。
    • 加入対象者: 原則として厚生年金保険の被保険者であれば加入対象となり、多くの場合、役員も加入できます。

 

  • デメリット:

    • 運用成果による上乗せがない: 資産運用が好調であっても、約束された給付額以上に受け取れるわけではありません。
    • ポータビリティ(持ち運び)の制約: 転職時に年金資産を他の制度に移換することは可能ですが、特に他のDB制度への移換は、移換先の制度の規定などにより制限されることがあり、DC制度ほど容易ではない場合があります。
    • 企業業績への依存: 企業の業績が悪化した場合、給付額の算定基礎となる給与が抑制されたり、最悪の場合、制度自体の存続が危ぶまれる可能性も否定できません。

 

今回はここまでとして、次回、確定拠出年金企業型の解説と、企業年金制度の比較を行いたいと思います。