法案の概要
遺族年金は、被用者(厚生年金加入者)や第1号被保険者(国民年金加入者)が死亡した際に、その遺族に支給される年金です。
現行の遺族厚生年金では、たとえば「子がいない妻」の場合、死亡時30歳未満なら5年間、30歳以上なら再婚や死亡するまで支給されます。
この法案は、この給付期間を大幅に短縮し、配偶者死亡時に20~50代で子のいない遺族は男女とも原則5年間の有期給付とする内容を含んでいます 。
具体的には、まず段階的に妻の対象年齢を30歳未満から40歳未満に引き上げ、さらに最終的には60歳未満まで拡大する方針であり、改正法施行日以降は子のない60歳未満の男性も新たに対象となる見込みです 。
法律案は2025年5月16日に第217回通常国会へ提出され 、厚生年金・国民年金法の一部改正として審議されています。
政府は「ライフスタイルや多様化する家族構成を踏まえ、男女差を解消するとともに再分配機能を強化する」ことなどを改正の意義に挙げており、財政負担軽減や制度の持続可能性確保も背景にあるとみられます。
現行制度との違い
現行制度では、妻が子なしで30歳以上の場合は終身支給だが、法案では20~50代の配偶者(男女とも)について一律に「5年間の有期給付」とする見直しが検討されています。
導入時点では、妻の場合は死亡時40歳未満(現行は30歳未満)を対象とし、年間約250人の新規受給者(子なし)が該当すると試算されている 。
男性では現行55歳未満は受給権がないが、改正後は年齢要件を撤廃し死亡時60歳未満の夫も有期給付を受けられます(新規約1.6万人) 。
ただしいずれも5年経過後は給付が打ち切られます(障害者や低所得者には継続給付措置あり )。
政府の意図・背景
厚労省は、女性の就労進展や共働き世帯の増加などを踏まえ、制度上の男女差を解消する必要があると説明しています。
また、超高齢社会における年金財政の持続可能性確保の観点からも、高齢期給付の在り方を見直す狙いとされています。
新制度は2028年4月施行(2028年度開始)で調整されており、導入にあたってはスムーズな移行措置を講じるとしている 。
遺族への影響
子育て世帯への影響
子どもが18歳未満いる世帯では、現行と同様に子が18歳になるまでは支給が続く 。
改正案では、子が18歳に達した後に配偶者への年金が5年間支給され、その後は打ち切られる。
このため、子育てが一段落した時点以降の収入に大きな変化が生じる。
たとえば、死亡当時専業主婦で子育て中だった妻は、子の成長とともに年金支給が停止し、収入源を自力で確保する必要が生じます。
法案では子のいる世帯への基礎年金加算額の引き上げ(年間約23.5→28万円)など支援強化も検討されているが、子が成人した後の負担増は避けられません。
子どものいない遺族(専業主婦等)への影響
改正前は30歳以上の子なし妻には生涯年金が支給されていたが、法案では死亡時20~50代の子なし配偶者は男女とも5年で支給終了となる 。
専業主婦世帯では夫の収入減少後の年金が家計を支える重要な柱であるため、5年で給付停止されると家計は大きな打撃を受けります。
遺族厚生年金と基礎年金だけでは生活再建が困難になるケースが多く、改正後の支給終了後に生活保護など別の公的支援に頼らざるを得ない遺族も増える恐れがあります。
高齢配偶者・障害のある遺族への影響
死亡時点で配偶者が既に60歳以上であった場合は、本改正の影響を受けません。
一方、死亡時に配偶者が60歳未満であれば改正の対象となるが、改正案では支給期間終了後に障害のある遺族や就労収入が低い場合は年金を継続して受給できる継続給付が用意される 。
高齢者や障害者の場合でも、一定の所得水準以下であれば5年以降も給付が途絶えない措置が取られる点は緩和策といえます。
考えられる対策・議論
公的支援・就労支援の強化
改正によって遺族年金が打ち切られた場合、多くの遺族は生活保護をはじめとする公的扶助や失業手当など他の制度に頼る必要が生じる可能性がある。
ただし、遺族年金受給中は収入とみなされるため、生活保護では受給額が調整対象となり「年金と生活保護の二重受給」は原則困難である。
こうした懸念から、厚労省や与党内では高齢遺族・失業者向けの就労支援や職業訓練の拡充が検討されている。
日本維新の会の申し入れでも、高齢者の雇用継続支援や柔軟な働き方推進など、遺族が就労により生計を立てやすくする対策が提案されている 。
政府側も、5年後に給付打ち切りとなる遺族に対して職業相談や再就職支援の窓口を強化する方向で検討すると伝えられる。